場外乱闘!25時! | 五体不満足★猫版

場外乱闘!25時!

「急患のお客様はメッセージをお入れください」

数十件目の病院に電話したとき、私は文字通り小躍りした。
神だ!神様っているんだー!

取り急ぎ現状を説明し、自宅の電話番号を留守電に入れる。20分ほど経過したとき、電話が鳴り響いた。
すぐにこちらへニャンちゃんを連れていらしてください。
私たちは取るものも取り合えず子猫をフリースのひざ掛けにやさしくくるみ、タクシーに飛び乗った。

は、いいが。

すっごい山奥なんだけどっ!?

病院は山のあなたの空遠く、といった感じで、車は進むよどこまでも。
しかし背に腹はかえられません。
しかも子猫1号がなんかしらんがものごっつ元気!
突然母猫から離されたことが不満なのか、フリースの脇から手を伸ばしてアッパーくらわせるわ、かみつくわ。つめで髪の毛をつかんで引っ張るわ。
「ふわーーーっ」
「あたーーーっ」
「あわぁーーっ」
などと、ブルース・リーばりの攻撃を仕掛けてくる。

いったいどうしてこんなことに・・・と心の中でつぶやきながら、奇声を発しつづけるこのけったいな猫に涙した。


「・・・・・・・・脊椎損傷、ですね。」
治療室へ入る前は坂本龍一似の渋い男だった獣医さんは、待合室に再び現れたとき、頭から水をかぶったかのように全身びしょ濡れだった。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「えっと、その姿は・・・」
私が尋ねると医師は引きつった笑みを見せながらこう言った。
「ははは、いやあ、この猫ちゃん、糞尿まみれで診察に差し支えるのでね、洗おうとしたのですが。この体のサイズにあわぬアクロバティックな動きで応戦してきましてね。」
「す・・・すみません・・・」
「いいえ!いいんですよ!元気な猫ちゃんです!」

脊椎損傷して元気な猫ちゃんと断言される1号。

しかし、生まれて始めて母猫と引き離された事、、そして水浴びの洗礼を受けたことで、彼もさすがに心身ともに疲れきったらしい(痛い思いをしたことは、傍目に見てもきれいさっぱり忘れているようだった)。診察台に横になった彼は、下半身をテーピングでがっちりと固定されて、まるでおくるみを着せられた赤ん坊のような状態になっていた。

「痛みは不幸中の幸いで感じていません。神経が傷ついたんですね。だからこの子はこの先一生歩けません。下半身不随というやつです。」
「でも、命には影響は無いんですね」
「今のところはありません。しかし、多分長生きはしないでしょう。手術をするという手もありますが、何分この子は生まれて間が無い。骨が柔らかいし体力も無いでしょうから、手術をしても保障が出来ません」

医師の言葉が私たち二人に重くのしかかる。

「でも、とにかくいきてる・・・。」
私がつぶやくと、医師は顔を曇らせた。
「責任を持って面倒を見れないようであれば、保健所で処分するなども考えられたほうが良いですよ。病院に通い続けるのもきっと負担になるでしょうし」

はっきりいって私の気持ちは、診察の間に固まっていた。
自分たちの不注意からこの子がこんなになってしまったんだ。面倒をみようと。
しかし、医師の言葉はなかなか厳しいものだった。
「もしも面倒を見るとしたらですよ。小さな箱の中で出来るだけ動かないようにさせて飼いなさい。食事も全て病院食。毎日ここまで通って、テーピングの固定をします。おしっことウンチは垂れ流しになりますから、それを定期的にとってあげなくてはいけません。あなたにそれが出来ますか?」

小さな箱の中で出来るだけ動かないようにさせる。

医師の言葉に不安を感じたことは言うまでも無い。子猫を動かさないように面倒見るなんて、無理だ。とくに、場外乱闘で獣医師をこんなしょぼくれたすがたにするまで戦った1号が、小さな箱の中でじっとしてるわけがないじゃないか!

私たちは言葉少なにその病院を後にした。
時刻は深夜3時を回っていた。