五体不満足★猫版
Amebaでブログを始めよう!

カスタマイズで生きる道

下半身麻痺という重く暗い状況を知ってか知らずか、力強く前脚だけで遊びまくる小龍。兄弟猫たちの中で一番元気なことに毎度言葉を失う飼い主ではありますが、そのころ、一番私の頭を悩ませていたのが「おしっこ問題」 。

ルームフレグランスは何を使ってるの?と聞かれたら間違いなく「尿!」って答えてしまいそうな勢いです。泣けます。

最初のうちはまだ子猫と言うことで、母猫がしょっちゅうお尻周りをなめてあげていた。だからあまり尿の問題はさしたる問題ではなかった。しかし、小龍たち子猫が生まれて早や二ヶ月目を迎えようとしていたその当時、おしっこの量も母猫の手にあまるまでに成長し、すなわち、健常な子猫たちはこのころトイレを覚える時期を迎えようとしていた。

子猫は、最初自力で排尿が出来ないので、常に母猫におしりを舌でなめてもらって、その刺激でちょびちょび、っと体内の不要な水分を放出する。離乳食を食べるようになるとうんちの量も人並み(!)になってくるので、排尿排便の前兆があったら、すぐに猫用トイレに連れて行かなければならない。

うちの場合、母猫と父猫が優秀・・・だったのかどうか、真偽の程はわからないが、ともかくこの親猫2匹が、子猫をトイレに率先して連れて行き、しつけをしてくれた。ために、人間は手放しで、その姿を愛でていれば良いのであった・・・ ただ1匹を除いては。

垂れ流しの状態を放って行くわけにはいかず、私はついにペットショップで、以前は鬼のようにかたくなに嫌っていた「ペットアイテム」を購入する運びとなりましたー(涙)。 まずはペット用の生理用品。私の購入したものは犬用のものだったのですが、まあ簡単に言えば、表面加工されたカット綿、手の平大。それを生理用のパンツにはさんでお尻にあてがうと言う、まあ人間とたいしてかわりのないつくりなんですが。試してみたらものすっごくずれるんですよね。場所が。

気が付いたらパンツと一緒にとれて床に転がっていたりして、高い金出して購入した割りに全く使えない。

また、猫用のおむつもいただけない。はっきりいって作りは人間の赤ちゃん用のおむつと代わり映えしないのですよ。尻尾の穴が付いているかいないか、ただそれだけの違いで。それで10枚入りが1000円強。人間用のものだったらその値段で30枚入りのを買えます。毎日2回は取り替えると言うことを考えたら、そうとう家計をあっぱくすることになることは明白。

しかもペット用のおむつ、おなかのウェストテープで固定するもので、つまりは人間の赤ん坊と同様に、床に寝かせておしりの下からおなかにおむつを渡さなければならない。脇を止めるときもペットはおとなしくねっころがっていなければならないわけですよ。
冷静に考えて、ペットが(しかも猫が!しかもとくにウチの小龍が!)おとなしくされるがままにおむつされてるわけないじゃないですか!

というわけで、「シャオロンにオムツを!作戦」第一弾は見事に失敗。何分生まれたばかりのシャオロンにはサイズも大きすぎたし、おむつをはかせようとすると暴れて手が付けられない。結局苦肉の策で取ったのは、ペットシーツ(室内犬用のおしっこ吸水シート)をカットし、おしりにあてがい、その上から伸縮性のある包帯でぐるぐる巻きにしていくと言う方法。 結局テーピングしてたときと何も変わっていないと言う(テーピングより動きやすいということくらい)。


しかし、この包帯、毎回はずして洗って干して、という作業が大変。サージカルテープも大量に使うし! あー、もう、誰か安くて小さくて吸水性にすぐれた紙おむつを作ってくれー!

にょにょにょ?尿ー!

さて、新しい病院で、下半身を固定していた「テーピング」をはずしてからというもの、我が家では新たな苦悩が勃発。
それが、尿。

「いやーーーーー!小龍!ちょっと待ってー!」

女医さんは、「尿はこまめに取れば大丈夫」と言ったが、そうは問屋が卸さなかった。下半身麻痺と言うことは下半身の感覚がないということで、其れはすなわち「尿の垂れ流し」を意味するのだ。

ちょびーーーーーっとずつわずかーに、しみ出でる小龍のおしっこ。それが、匍匐全身に似た形でちょこちょこと動き回る小龍の軌跡には、ナメクジが張ったようなあとが・・・・・・・。

本当に、このときほど過去の自分に「フローリングのマンションを借りてくれてありがとう」と感謝したことはない。 小龍を追い掛け回して床を拭き、尿で汚れた小龍のお腹とお尻を濡れたタオルで拭く。ひどいときは洗面器にぬるま湯を張り、軽く洗って、タオルドライ。

猫を飼っている方はご存知かと思いますが、何せ猫のおしっこの臭いは

臭い。

どれくらい臭いか文字でリアルに再現できないのが残念でなりませんが、あえて言うなら、猫のおしっこを放っておくと,納豆と牛乳を雑巾にからめて学校の体育館倉庫に放置しておいた臭いになります

(好奇心の強いあなたはぜひ学校で試してみてください)。

そんな数日間を過ごし、私はとうとう発狂して部屋の外に飛び出しました。向かった先はペットショップ。強力な消臭スプレーを買わなければ多分死ぬ。金に糸目はつけない、どうでもいいからとにかく消臭スプレーをください!

と、店内を物色していた私はすばらしいアイテムを見つけたのです。
「なにこれ!」
私の目を奪ったもの、それは。 ペット用生理グッズ。

私はわなわなと震えながらその商品にすがりつきました。そうだよ、これだよ!これを、おむつみたいにあてがってやればいいんだ! 色めき立った私は、即刻生理用ナプキンと、さらにその棚の脇にならぶナプキン用のショーツ(オムツカバーみたいなもの)を買い物カゴに放り込み、さらに、その後の棚で「ペット用おむつ」なるものを発見。悩みに悩んだがどっちも買った。

とにかくこれをあてがってやればおしっこ問題は解決だ。
闇の中に一筋の光を見出した気分で、私はレジに。そしてその数字がはじき出されたとき、卒倒しそうになりましたとさ。

ペット業界が不況知らず、ということを裏付けるようなあまりの価格。しかし、背に腹は変えられない。

私はなけなしの万札を財布から未練がましい目つきで取り出すと、愛想の悪いお姉さんに手渡したのでありました。

試行錯誤でサクッとGO!GO!

まず私がしなくちゃいけないこと。
深呼吸して考える。
うん、やっぱりそうだ。
「まずはイライラしないこと。」
「大丈夫、コイツの生命力は図太い。つまり第二は小龍をの生命力を信じること!」

新しい病院は、すぐ近所にあるところへ変えてみた。そこは女医さん二人でやっているところで、盲目の猫を飼っていた。
事情を話すと新しいお医者さんは親身になって相談に乗ってくれた。ひとまず安心。

小龍はといえば、度胸があるのかただの天然ボケなのか、診察台の上でごろごろ腹を見せてじゃれている。

「うーん、とくに背骨は傷ついてないね。」
の言葉に驚く私。
「え?でも、脊椎損傷って前の先生は言っていたし、それに、つい先日検査でレントゲンをまた取ったんですけど、何番目かの背骨がつぶれてしまってるって・・・」
「いいえ。背骨はきれいなものよー。骨の中で神経が傷ついちゃってるのかしらね。それとも自然に骨折が治ったかな?」

よ、よくわからないけど、そういうものなんですか?
まあでも、とにかく小龍の脚がもう戻らないということだけはここでも確実とされました。別にそれはわかっていたことなんでね。かまわないんですが。

「テーピングは良くないわねえ。骨が変形しちゃうから・・・。ほら、もうこの、足首の部分、テーピングされた方向に向かってゆがんでるでしょ」

問題はその言葉だった。
指摘されるまで気づかない飼い主もどうかと思うが、毎日テーピングしないと背骨がますますずれて、全身動かなくなるかもしれない、と言われていたのだ。全身が動かなくなったのはまさに私のほうだよ!とほほー、あきれ返って見動き取れません。

「そのお医者さんはなんでまたそんなこと言ったのかしらねえ」

女医さん二人は苦笑して、おしっこ臭いテーピングをきれいに取ってくれた。
「おしっこも、きちんと定期的にふいてあげれば、だらだら流すことはないと思うから大丈夫よ。それから、これ以上ひどくなることも良くなることもないから、自由に遊ばせて上げて大丈夫。体を動かすことで状態が悪くなることはまず、ないから」

わー!マジですか!!
小躍りどころか万歳三唱の私。

毎日病院に通院しなくても言い!
毎日テーピングさせることもない!
自由に遊ばせてもいい!

その三つがクリアされただけで、かなり負担が解消された!
私の負担はもちろん、小龍の負担も軽くなる!

本当にね。このころのことを振りかえって思うのは、飼い主が負担を感じすぎるとそれがペットのストレスになる!ということ。
あのころは私にとっても全てが初めての事ばかり。
一緒に生きていく、ということ、小龍を長生きさせることばかりに意識がいっちゃって、楽しくゆっくり、安心して生活することをすっかり忘れてたよ。

そして、わずか数日の間に、小龍は再びわたしに「おやちゅ!」をねだる以前の小龍にもどっていたのでした。





さよなら!決別の日

獣医さんに、思い切って、病院を変えたいのですがと相談してみた。

「ここまで来るのにかなりお金が掛かるし、そのお金を治療に当てたほうが有効かな、と思ったんです。移動時間中に、小龍がかなり車酔いしてしまうのも気になりますし・・・。」
とたんに、コレまでやさしかった獣医の顔が無表情になる。
当たり前か、夜中にたたき起こされて親身になって手助けしたのに、病院を変えるときたもんだ。
そりゃ「えー」てなもんだろう。

「いや、別に、僕はかまいませんがね。毎日来るのが大変なら別に一週間に一度でもかまいませんよ」
医師は憮然とそう答えた。
え?毎日来なきゃダメ、って言ってたのは、あれは・・・。
「とくに毎日来てくれても、薬出す必要も無い猫だしね。僕のやってるのはテーピングだけだから。あなたがテーピングできれば別にさ、通院しなくてもいいんだし」

なにー!

私は、テーピングの交換とあわせて、体調管理なんかもしてくれてると思ってたんですよね。てっきり。だからなんだかその言葉を聞いて「え?え?え?あれ?」という、脳内恐慌状態に。
しかし、呆然と立ち尽くす私に、坂本教授似のその先生はあきらかに怒りを含んだ言い方で
「はい、いいですよ。帰って。」
と。

えー。

受付でお金を払うと、受付のお姉さんが、診察室での状況を知らずに明るく「にゃんちゃんのお名前、決まったんですね?シャオロンちゃんって言うんですか、かわいいですねえ」なんてのんびりしてる。
はあ、とかなんとか生返事していると、看護婦さんがいつものように帰りのタクシーを呼んでくれようとした。
すると診察室の中から医師が飛んできて
「もういいんだ。タクシー呼ばなくていい。この人勝手に自分の足で歩いて帰るから」

えー!!!!

看護婦さん真っ青。
「歩いて帰るって・・・ここがどこだかわかってますか!先生!」
と、抗議してくれる看護婦さん。しかしなんだかもう、心が冷め切って、どうでもいい気分の私。

「あー、いいですいいです。歩いて帰ります。歩いて。」

困惑する看護婦さんを背に、私はフリースのひざ掛けで小龍をくるみ、一人、病院を後にした。

時、3月中旬。
東北では一番寒さの厳しい季節。
真綿のような雪が降りしきるなか、携帯からタクシーを呼び、乗り込む一人と1匹。
沸々と怒りに震える私と、寒さでふにゃふにゃ鳴く小龍に、そのときのタクシーの運ちゃんはこう言ったのだった。

「あんれまあー、ずいぶん待だせで申しわげねーね。赤ん坊連れでるどは思ってもいながったがらしゃ、のんびり来だよはー」※おやまあ、ずいぶん待たせて申し訳ないね。赤ちゃん連れてるとは思ってなかったからさ、のんびり来ちゃった、の意

そりゃあ猫を抱えて雪の山道を徘徊してるなんて思いませんよね。あたしもこんなところを一人で歩くなんて思わなかったよ!


小龍に嫌われた

かくして、私と小龍の波乱万丈な日々は始まった。

相棒も、私の頑固さにお手上げ状態となり、家で飼うことに同意を示した。「しょうがない。あんたがそこまで言うのなら」などと言っていたが、結局やつも情が移ってしまっていたのだ。

病院にはしばらく毎日通った。
テーピングで固定している下半身は、半日もしないうちにおしっこまみれになってしまう。そのために、テーピングをする前に、下半身に脱脂綿をいくらか挟み込む作戦を、獣医はたてた。
しかし、やはりこまめにとりかえないと、子猫はすぐにおしっこまみれになってしまう。

そうすると毛皮にしみこんでたいへん臭い。
しかも皮膚に付着して肌が炎症を起こす。

「しかしこれしかてだてはありませんから」

との医師の言葉。
うーん。私はなんとなく釈然としないものを感じ始めていた。

テーピングはがっちりと行われる。これは試しに病院で挑戦してみたのだが、素人に出来るものではなかった、まず小龍が嫌がって暴れる。抑えながらテーピングすると、テープがたわむ。なかなかどうして、一苦労なのである。

このために毎日山奥まで5000円近くかけて通院するのも、懐事情を考えると先行きが暗い。病院を近くの動物病院に移すことを考え始めた。

シャオロンはといえば、常に警戒態勢だった。
毎朝風呂に入れられ、病院に連れて行かれ、テーピングをされて帰ってきて、さあ遊ぼう!と思うとかごから出してもらえない。自由に遊べるのは数時間。兄弟猫はぴゅんぴゅん飛び回っているのに、自分はころん、とそこにじっとしていなければならない。
ご飯をもらおうと母猫のところへ行けども、兄弟猫との争奪戦にあえなく敗北。
彼のイライラはピークに達していた。

「全部こいつのせい」
と、小龍が思ったかどうかは定かではないが、ある朝から小龍は私と目を合わせてくれなくなった。
「おやちゅ!」
の催促もなし。
声をかけても知らん振りで絶対にこっちを向こうとしない。
なんだか、なんだか態度が露骨におかしい!のである。

がーん・・・・・・・・・。

思いあたるフシはありすぎだった、
はしゃぎまわって遊んでいれば、医師が「あまり動かさないように」といった言葉を思い出してそれを止め、楽しみを取り上げるようなことをしていた。
いやだ!と暴れても、毎朝のお風呂を欠かさなかった。
いやがっている彼にテーピングを毎日してもらった。

そりゃあ嫌われますとも。
猫は「自分のため」なんてわかりませんもの・・・。

完璧に嫌われた・・・。
私は猫のおやつを片手にがっくりと項垂れた。

考えて見れば、このころの私は常にピリピリしていた。
小龍がとんでもないジャンピングスタイル(腹筋で床を蹴ってジャンプするという荒業)を見せれば「ひー!やめてぇぇ!」と無理やり押さえ込み、かごにいれて安静にさせようと躍起になっていた。
そんなこと、猫にわかりっこない。
それどころか逆にストレスためこむっての!

私のそんなピリピリが伝わるのか、私が近づくと逃げるようなそぶりを見せるようになった。大の大人だが泣いた。とても悲しかった。

一緒に生きよう!

「絶対、反対!」「いや、俺だってそれには絶対、反対!」

翌日。私と相棒は互いに「断固反対」「断固反対」と繰り返していた。
これ、二人が互いに同じ意見を口にしていると思うでしょうが、実は違うのです。私は相棒の意見に断固反対だったし、相棒は私の意見に断固反対だった。つまり意見の衝突が生じている場面なのです。

「無理だよ。金だってかかる、手もかかる。保健所に連れてったほうがいいよ!可哀相だと思うし飼ってやりたいと思うけど、しょうがないよ!」恋人は昨日の弱気は何のその、コレだけは譲れないといった風情。

「冗談じゃないよ。なんでそんなに簡単に殺したほうがいいだなんて言えるの?可哀相だと思うなら責任取ろうよ!こんな目にあわなきゃ普通に飼い手が付いて幸せに猫ライフを満喫できたんだよ!?」
そもそも誰の不注意でこんなことになってると思うんだよ!と、衝動的に言いたくなる台詞をぐっと飲み込む。
そう、相棒のせいじゃない。もとはといえば、私たちが「子猫」と一緒に生活する、ということに関してあまりに無防備で、注意力に欠けていたのだ。柵を作って、離乳するまで安全な場所で生活させる、ということだって出来たはずなのに。

衝突の発端は、恋人があまりにも自責の念にとらわれていたからだった。「俺の責任だ」とへこむ姿を見てちょっとかわいそうになり、「こんなに小さくてちょこまかしてればわからないよ。横から突然走りこんで扉の下にもぐりこんできたんだからさあ」と、同情した私が馬鹿だった!
こやつはそれで一気に勢いを取り戻し、今度は手のひら返したように「育てることは出来ない」ときっぱり言い放ったのだー!

んもうーーー馬鹿馬鹿馬鹿!単純馬鹿!自分の責任じゃない、と気持ちが軽くなった途端もうそれかい!あ、あ、呆れるわ!

確かに。野生の猫では両後脚の麻痺は生命にかかわる大問題だ。このまま生きててもいずれ死んでしまうだろう。
だけど1号は幸い人間の家で生まれた猫だし、不幸中の幸いで痛みは感じていない。内臓も無傷、出血をしたわけでもない。動きは確かに他の健常な猫と比べて劣るだろう。だけど、足が動かないだけで元気だ。飼い猫ならば獲物を狙う必要も無い。

これがたとえば、生きているだけで堪えがたい痛みがあるというなら、そりゃあ考えるよ。かわいそうだからという理由だけで生かすのは、もっと非情だと、それはわかる。だけど、人間様の勝手で傷つけて人生(猫生?)台無しにされた猫を、人間様の勝手でその生命を取り上げるなんて、そんな簡単に決めていいことか?

そのときのあたしはもう、頭の中がぐちゃぐちゃ。生かしてあげたいと思うのが人間のエゴなのか?でも、きちんと責任をとる決意と、それに伴う負担もいとわないという気持ちがあれば!そんなステレオタイプに「手負いの動物は殺してあげるのがやさしさ」なんて、それ、ちゃんと自分の頭で考えて出した答え?
世間でよく言われてるから、ってな感じで軽々しく口にしてないか?


で、困ったときのママ頼み。未熟者の私は相棒が仕事に出かけてから、ひっそりと実家へ電話を。かくかくしかじか。どうすればいいか。と相談すると、普段「生き物を大切にしなさい」「命を大切にしなさい」「何物にも変えがたい、生命の重さ!」「中絶なんてもっての他!」とかたくなな教えを貫いてきた私のママはこう言った。

「えー。そんなめんどくさい。保健所連れて行きなさいよ」

ママ・・・・・・・・・・・・。

部屋のすみっこで体育すわりしてシクシクと泣き濡れる私。
この瞬間、全世界を敵に回した気分でした。

しかし。
「ふにゃああ」
そのとき、シャオロンがヨチヨチ歩きで(テーピングで固定されているのでアザラシの赤ん坊にそっくり)、首を「クリッ」。

「おやちゅ!」 (と、勝手に私が判断した)

瞬間、だーーーーーーーっと頬を流れ落ちる涙!滂沱!おまえー!このやろうー!かわいいー!かわいすぎるんだよぉーーー!!

私は改めて心に誓った。
「絶対見捨てたりするもんか。一緒に生きる。絶対一緒に生きるからね!」

子猫のおやつ、ミルクと蜂蜜を混ぜたモノを、指の腹にのせて1号の口元に差し出すと1号はぺろぺろとおいしそうになめ始めた。
「一緒に生きよう、1号」
声にして語りかけると、1号はちらっと私を見て
「ふわたぁ!(了解)」と返事をした。

・・・。
変な、鳴き声・・・。


その夜、私は1号に「小龍(シャオロン)」と名づけた。
ブルース・リーの本名である。

場外乱闘!25時!

「急患のお客様はメッセージをお入れください」

数十件目の病院に電話したとき、私は文字通り小躍りした。
神だ!神様っているんだー!

取り急ぎ現状を説明し、自宅の電話番号を留守電に入れる。20分ほど経過したとき、電話が鳴り響いた。
すぐにこちらへニャンちゃんを連れていらしてください。
私たちは取るものも取り合えず子猫をフリースのひざ掛けにやさしくくるみ、タクシーに飛び乗った。

は、いいが。

すっごい山奥なんだけどっ!?

病院は山のあなたの空遠く、といった感じで、車は進むよどこまでも。
しかし背に腹はかえられません。
しかも子猫1号がなんかしらんがものごっつ元気!
突然母猫から離されたことが不満なのか、フリースの脇から手を伸ばしてアッパーくらわせるわ、かみつくわ。つめで髪の毛をつかんで引っ張るわ。
「ふわーーーっ」
「あたーーーっ」
「あわぁーーっ」
などと、ブルース・リーばりの攻撃を仕掛けてくる。

いったいどうしてこんなことに・・・と心の中でつぶやきながら、奇声を発しつづけるこのけったいな猫に涙した。


「・・・・・・・・脊椎損傷、ですね。」
治療室へ入る前は坂本龍一似の渋い男だった獣医さんは、待合室に再び現れたとき、頭から水をかぶったかのように全身びしょ濡れだった。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「えっと、その姿は・・・」
私が尋ねると医師は引きつった笑みを見せながらこう言った。
「ははは、いやあ、この猫ちゃん、糞尿まみれで診察に差し支えるのでね、洗おうとしたのですが。この体のサイズにあわぬアクロバティックな動きで応戦してきましてね。」
「す・・・すみません・・・」
「いいえ!いいんですよ!元気な猫ちゃんです!」

脊椎損傷して元気な猫ちゃんと断言される1号。

しかし、生まれて始めて母猫と引き離された事、、そして水浴びの洗礼を受けたことで、彼もさすがに心身ともに疲れきったらしい(痛い思いをしたことは、傍目に見てもきれいさっぱり忘れているようだった)。診察台に横になった彼は、下半身をテーピングでがっちりと固定されて、まるでおくるみを着せられた赤ん坊のような状態になっていた。

「痛みは不幸中の幸いで感じていません。神経が傷ついたんですね。だからこの子はこの先一生歩けません。下半身不随というやつです。」
「でも、命には影響は無いんですね」
「今のところはありません。しかし、多分長生きはしないでしょう。手術をするという手もありますが、何分この子は生まれて間が無い。骨が柔らかいし体力も無いでしょうから、手術をしても保障が出来ません」

医師の言葉が私たち二人に重くのしかかる。

「でも、とにかくいきてる・・・。」
私がつぶやくと、医師は顔を曇らせた。
「責任を持って面倒を見れないようであれば、保健所で処分するなども考えられたほうが良いですよ。病院に通い続けるのもきっと負担になるでしょうし」

はっきりいって私の気持ちは、診察の間に固まっていた。
自分たちの不注意からこの子がこんなになってしまったんだ。面倒をみようと。
しかし、医師の言葉はなかなか厳しいものだった。
「もしも面倒を見るとしたらですよ。小さな箱の中で出来るだけ動かないようにさせて飼いなさい。食事も全て病院食。毎日ここまで通って、テーピングの固定をします。おしっことウンチは垂れ流しになりますから、それを定期的にとってあげなくてはいけません。あなたにそれが出来ますか?」

小さな箱の中で出来るだけ動かないようにさせる。

医師の言葉に不安を感じたことは言うまでも無い。子猫を動かさないように面倒見るなんて、無理だ。とくに、場外乱闘で獣医師をこんなしょぼくれたすがたにするまで戦った1号が、小さな箱の中でじっとしてるわけがないじゃないか!

私たちは言葉少なにその病院を後にした。
時刻は深夜3時を回っていた。

あきらめる?あきらめません、絶対に!

電話をかけまくる。
隣で意気消沈した気の弱い恋人が、「でも、もう夜だし。やってないよ」
などと震えた声で虚空に向かってつぶやいている。自分の手で子猫を怪我させてしまったことがよっぽどショックだったのだろうそりゃあそうだ。

しかし、私は聞こえているのに聞こえてなかった。
「うるさい、ちょっと黙ってて」と非情な一言を投げつけ、片っ端から動物病院に電話した。
時刻は深夜1時を回っていた。

夜間緊急時に対応してくれる病院の存在は絶望的だった。
子猫は痛みを感じていないのか、扉に挟まれた瞬間声を上げただけで、なんと普通に走り回って兄弟たちと遊んでいる。
その姿がまた怖い。言っちゃ悪いけど、ほんとに怖かったんだ!
そんな姿でけろっとされていると、突然死んじゃうような気がして泣きたくなったし、何より、今動いちゃ良くないんじゃないの?という不安があった。
でも、1号はこっちの心配をよそに「ごろにゃーん」などと鳴いている。

電話はつながらない。
「ねえ、インターネットで病院調べて。仙台、動物病院、24時間で検索してみて!」
ぼーっと突っ立っているのが精一杯、といった風情の恋人に発破をかけてみるが、恋人はもうすでに心ここにあらずで、検索しては見るものの探すことが出来ない、といった具合。
そのうち恐怖と不安に悲しみと苛立ちがないまぜになった気持ちになって、ちくしょー!使えねえ!この男使えねえ!などと心で叫ぶ非道モノの私!

「ねえ、あきらめよう。もう、だめだよこの子」

恋人の泣き言が部屋にじんわりと響いたとき、私は怒鳴っていた・・・。
多分、あのときの私の顔は般若のようだったんじゃなかろうか・・・。

「そんな言葉はやってみてから言えー!」

真夜中の事件

そのころ、私と相棒が暮らす部屋はとんでもないことになっていた。
飼い猫2匹がねんごろな仲になり、めでたく先月出産終了。
時は流れて一ヶ月。
ヨチヨチ歩きの小さな毛糸玉たちが、そこかしこを徘徊していた。その数5匹。
グレーのチンチラもどきが3匹に、チャウチャウみたいな風貌の茶色の猫が1匹、プッチンプリンみたいに、頭のほうはクリーム色で、おしりの近くがカラメル色の猫が1匹。グレーのチンチラもどきたちの見た目は全く区別が付かない。毛の長さの違いも、模様の違いも、まだなんとなくはっきりとしない。

私と相棒は大の猫好き!
「あー、猫はいいなあ。子猫に囲まれて、親猫のかいがいしさを見つめて寝起きができるなんて、なんて幸せ!」
なーんて悠長に、私たちはひと時の幸せに身を任せていた。

長いこと一緒に生活し、会話が少なくなってきた私たち恋人は、猫がやってきてからよく喋るようになった。今日はね、こんなことをこいつらがやっててね、とか。今日は毛玉をはいちゃったんだよね、とか。とにかく、3倍以上会話が増えた。

私たち恋人は、猫で繋がっていたといっても過言ではなかったかもしれない。
子はかすがい、なんていうけれど、私たちの場合は猫はかすがい!
にょほほーん、と、この毛玉たちとのふれあいを満喫するときが続く。と、思っていた・・・。

そう、その日の真夜中まで。

「ぎゃあ!」

という、赤ん坊が小さく助けを求めるような声が聞こえた。一瞬だった。
何!?と目を凝らしたときには、そのグレイのチンチラもどき1号は、後ろ足をだらりと投げ出したまま、糞尿をまきちらして匍匐全身のような形で部屋をばたばたと走り回っていた。

その光景を、私は一生忘れないだろう。

親猫たちもあっけに取られ、呆然としているようだった。
子猫たちは、その兄弟猫の異常事態に身を硬くし、耳を伏せ、体を低くして警戒態勢を取った。

恋人が座り込んで「ごめん・・・」とつぶやいたまま他の猫たち同様、動かなくなってしまった。

事件がおきた。
恋人が、クロゼットの扉を閉めようとしたときに、運悪く横からすべりこんできたその1号を、はさみこんでしまったのだ。

「ごめん・・・だって・・・ごめん」
と、うわ言のように繰り返す恋人に向かって、「ねえ!いいから病院!病院!」と、私は反射的に叫んでいた。
パニック状態だった。

だらりと力なく、妙な形に投げ出された子猫の後ろ脚が恐怖だった。
その日は、子猫たちが生まれて丁度1ヶ月目だった。

前脚だけで何でもできる!

ある、穏やかな春の日・・・。

「ぎゃー!シャ、シャオロンがっ!!」
一緒に暮らす相棒の絹を裂くような悲痛な叫び声。キッチンにいた私はその声に驚いてぴゅん!と飛び出す。

「どうしたの!」

そこで見た光景を、私は一生忘れないだろう。

「さ、逆立ちしてるぅぅぅぅ!!!」